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古きを知り、新しきを創造す!

 当研究室では、食品・食材に関する不思議なことについて疑問を解き、その知見を新しい食品の創造に活かすために、「美味しく」、「安全に」、「健康に」をテーマにマクロからミクロまで様々な研究に挑み、これまでにない新しい食品(未来型食品)の創造を目指しています。研究テーマの全体像は以下の図をご参照ください。これからも沢山の枝を伸ばして、社会に還元できる成果を実らせていきたいと思います。

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豆腐の謎と新たな使い道

 豆腐は日本の伝統食品の一つです。また、海外でもJapanese healthy foodとして注目されています。ところが、豆腐業界は縮小の一途を辿っています。これは消費者も含めた社会問題です。豆腐という食文化を保存していくためにも、新しい食への利用が必要となります。

 豆腐の加工では、「同じ豆乳とにがりをもちいて食感の異なる豆腐(木綿豆腐ときぬごし豆腐)を作り出す」ができます。その作り分けの分子機構を明らかにするために、研究を進めています。これまでに、凝固剤の濃度が作り分けに関与していること(Arii & Takenaka, 2013)、二価金属イオンの役割が凝固の開始(凝固開始因子)であること、金属イオン濃度が「絹ごし豆腐と木綿豆腐の運命づけ」に重要であること(Arii & Takenaka, 2014)、その作り分けの因子が塩析と塩橋であること、凝固剤由来の陰イオンが豆乳中のタンパク質の安定性に影響を及ぼすこと(Arii & Nishizawa, 2018)を明らかにしています。

 上述のような研究を進める中で、豆腐や豆腐の加工技術を利用した開発研究も実施しています。これまでに、鉄不足の改善を目指した鉄をはじめ、他のミネラルや有機酸で豆腐様食品の加工が可能であること(特許第5959817号朝日ファミリー阪神/北摂版、2015)、ハチミツで豆乳が固まることを明らかにしました(Arii & Nishizawa, 2020; 特許第7220889号)。淡路島産ハチミツを利用した新しいスイーツ 豆蜂(トーファン)を、ハートス フード クリエーツ株式会社と共同開発しました( Arii & Nishizawa, 2022a; Arii & Nishizawa, 2022b)。

 

 開発研究で生じた疑問を解決する試みにも取り組んでいます。グルコノデルタラクトン(GDL)を用いた豆腐の形成機構についても分子レベルで解析し、塩化マグネシウム添加による豆腐形成と直接比較しました(Arii et al., 2021)。現在、pHと金属添加による沈澱現象について調べています。

 上述の開発研究が発展し、豆腐の特性を生かした3Dフードプリントインクも開発しています。これまでに、豆腐とデンプンを混合したインクの開発に成功し、構造構築と、インクの物性や離水の関係について明らかにし、加えてインク開発における栄養バランスの考慮が大切であることを報告しています(Arii & Nishizawa, 2023)。食べれるインクの開発は始まったばかりですが、食の様々な問題を解決する技術に一石が投じれるように頑張ります。

 さらに、豆腐を利用した食の制限を有する人たちに向けた新しい食品の開発も始めました。豆蜂からヒントを得て、嚥下困難者、小麦、牛乳、卵アレルギーを持つ人、ヴィーガンに向けた豆腐プリンの開発(Arii & Nishizawa, 2024)他、色々な食品の開発を目指しています。

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白ナタマメが世界を救う!?

 ナタマメは、高温地域における作付けがよく、収穫量も大豆に匹敵し、害虫や病気にも強いと言われています。研究室では、地球の環境変化がもたらす食料難に備えて、ナタマメの食素材としての可能性を探っています。本研究では、なた豆を用いた食品開発を目指し、なた豆の食品加工特性や栄養成分の解析を行っています。

 ナタマメからタンパク質を豊富に含む抽出液の抽出方法を確立し、ナタマメタンパク質の加熱凝集温度を決定しました。また、ナタマメタンパク質の主要タンパク質であるカナバリンが塩化マグネシウムの添加により沈殿することも明らかにました(Nishizawa et al., 2016)。さらにカナバリンが塩化マグネシウム濃度依存的に可溶性を変化させること、その可溶性変化が可逆的であることも明らかにしています(Nishizawa & Arii, 2016)。この性質の分子機作についても注目し、水抽出した可溶性のカナバリンと高塩濃度存在下のカナバリンは四次構造が異なることを明らかにしています(Nishizawa & Arii, 2019)。興味深いことに、この性質は、ナタマメの品種や抽出方法の違いによって、影響を受けます(Nishizawa & Arii, 2018)。本性質を活かし、カナバリンを大量に簡易精製することができます。カナバリンは分岐鎖アミノ酸であるロイシンを乳清タンパク質の1.5倍含んでおり(Nishizawa et al., 2016)、カナバリンを運動と組み合わせて摂取することで、乳清タンパク質のように筋肉維持・向上を可能にするかもしれません。本研究テーマは、雑豆タンパク質へと拡がり、龍谷大学の西澤先生に引き継がれています。

 上述の研究を進める中で、タンパク質をほとんど含まない抽出液を低温下に静置すると、ゲル化することを発見しました(Nishizawa & Arii, 2017)。本抽出液は10℃以下で固まり、固まったゲルは65℃以上で溶解されます。天然由来の様々なゲル化剤がありますが、これほど低温で固まり、融解温度とゲル化温度の温度差が大きい植物性ゲル化剤は、他に類を見ません。この特徴を生かすと、調理性、加工性、利便性が上がると期待できます。このゲルはナタマメのデンプンであることが分かりました(Arii & Nishizawa, 2024)。本研究内容で特許も取得しています。(特許第6961216号)。このゲルを用いた未来型食品の開発も目指しています。

その他のテーマ

クレマの役割 エスプレッソコーヒーはお好きですか。あの芳醇なアロマ、ガツンとくるテイスト、コーヒー豆の成分をギュッと絞り出したエスプレッソコーヒーについては、実は謎が多いのです。その中でもエスプレッソの上に重層される泡(クレマ)の役割についてはよく分かっていませんでした。私たちの研究で、クレマに保温効果があることがわかってきました(Arii & Nishizawa, 2017)。エスプレッソコーヒーの美味しさを維持する基準の一つに温度があります。冷めたコーヒーは不味いので、なるべく美味しいと感じる温度を維持する必要があります。その温度維持にクレマが役立っているというわけです。

 この研究内容は、Bioscience, Biotechnology, and BiochemistryのSpecial number on Food Engineering Scienceに掲載されました。

ハチミツの成分 ハチミツは古代より医薬品や食品として用いられており、健康に有用な様々な成分が含まれています。ハチミツの中に含まれる有機酸でも最も多いものがグルコン酸です。グルコン酸は腸内菌叢の構成や活性に影響を与えます。研究室では、ハチミツの中のグルコン酸量と全糖量が反比例することを明らかにし(Nishizawa et al., 2021)、全糖量を測定することで、グルコン酸が多く含まれるハチミツをスクリーニングする方法を報告しました(Arii & Nishizawa, 2022; 特許7220889号)。研究室で開発した豆蜂はハチミツ中のグルコン酸で豆乳を固めたスイーツです。

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