ようこそ有井研究室へ
「古きを知り、新しきを創造す!」

食の制限を科学で解決する次世代食品設計
当研究室では「食べられない・食べにくい・選択肢が少ない人のために、食品そのものを再設計する」ことで、新しい植物性食品を開発しています。この再設計は、食の制限をもつ人たちにおける、狭まりがちな食の選択肢を拡げます。また、食の制限をもたない人たちにも選ばれる美味しい食品設計を行うことで、「同じものを食べる喜び」を提供します。
キーワード:植物性食品、食の制限、食品構造設計、精密栄養学
食の制限がある人に向けた植物性代替食品の開発
アレルギー、グルテン不耐症、ヴィーガン、嚥下・咀嚼困難者など食の制限がある人研究室では、進んで選ばられる代替食品の開発を目指し、豆腐や豆腐の加工技術を利用した、植物性代替食品の開発に取り組んでいます。
鉄不足の改善を目指した鉄をはじめ、他のミネラルや有機酸で豆腐様食品の加工が可能であること(特許第5959817号;朝日ファミリー阪神/北摂版、2015)、ハチミツで豆乳が固まることを明らかにしました(Arii & Nishizawa, 2020; 特許第7220889号)。淡路島産ハチミツを利用した新しいスイーツ 豆蜂(トーファン)を、ハートス フード クリエーツ株式会社と共同開発しました( Arii & Nishizawa, 2022a; Arii & Nishizawa, 2022b)。嚥下・咀嚼困難者、小麦、牛乳、卵アレルギーを持つ人、グルテン不耐症の人、ヴィーガンに向けた豆腐プリン(Arii & Nishizawa, 2024)や豆腐クリーム(Arii, 2025)など、色々な食品の開発を目指しています。これまでの対応食は対象となる食材を除去することが基本でしたが、食材の除去が原因で美味しさが損なわれることが問題でした。私たちは食材の除去ではなく、豆腐をベースとした新しい植物性代替食品を提案し、消費者から選らばれる食の提供を目指しています。

3Dフードインクの開発
3Dフードプリント技術は、食の未来を救う技術として期待されています。しかしながら、食べられるインクの開発には、インク素材に関する科学的知見が不足しています。特に栄養への配慮が見逃されがちです。研究室では、豆腐の特性を生かした、栄養バランスに優れた食べられるインク (豆腐インク) の開発を試みています。これまでに、豆腐とデンプン (Arii & Nishizawa, 2023)、イヌリン、セルロースを混合したインク (Arii, 2026) について、印字造形能と、インクの物性や離水の関係について明らかにしています。豆腐インクの開発は、精密な栄養素の提供につながるテーラーメイド型の完全栄養食品の開発へと繋げていきたいと考えています。
ナタマメの食品利用
ナタマメは、高温地域における作付けがよく、収穫量も大豆に匹敵し、害虫や病気にも強いと言われています。研究室では、地球の環境変化がもたらす食料難に備えて、ナタマメの食素材としての可能性を探っています。本研究では、ナタマメを用いた食品開発を目指し、ナタマメの食品加工特性や栄養成分の解析を行っています。ナタマメを用いた食品開発は大豆アレルギー対応食品の開発につながります。
ナタマメタンパク質 ナタマメからタンパク質を豊富に含む抽出液の抽出方法を確立し、ナタマメタンパク質の加熱凝集温度を決定しました。また、ナタマメタンパク質の主要タンパク質であるカナバリンが塩化マグネシウムの添加により沈殿することも明らかにました(Nishizawa et al., 2016)。さらにカナバリンが塩化マグネシウム濃度依存的に可溶性を変化させること、その可溶性変化が可逆的であることも明らかにしています(Nishizawa & Arii, 2016)。この性質の分子機作についても注目し、水抽出した可溶性のカナバリンと高塩濃度存在下のカナバリンは四次構造が異なることを明らかにしています(Nishizawa & Arii, 2019)。興味深いことに、この性質は、ナタマメの品種や抽出方法の違いによって、影響を受けます(Nishizawa & Arii, 2018)。本性質を活かし、カナバリンを大量に簡易精製することができます。カナバリンは分岐鎖アミノ酸であるロイシンを乳清タンパク質の1.5倍含んでおり(Nishizawa et al., 2016)、カナバリンを運動と組み合わせて摂取することで、乳清タンパク質のように筋肉維持・向上を可能にするかもしれません。
ナタマメデンプン タンパク質をほとんど含まない抽出液を低温下に静置すると、ゲル化することを発見しました(Nishizawa & Arii, 2017)。本抽出液は10℃以下で固まり、固まったゲルは65℃以上で溶解されます。天然由来の様々なゲル化剤がありますが、これほど低温で固まり、融解温度とゲル化温度の温度差が大きい植物性ゲル化剤は、他に類を見ません。この特徴を生かすと、調理性、加工性、利便性が上がると期待できます。このゲルはナタマメのデンプンであることが分かりました(Arii & Nishizawa, 2024)。本研究内容で特許も取得しています。(特許第6961216号)。現在、このゲルの性質を明らかにしようと解析しています。塩化鉄(III)存在下で融解すると、ゲル化しなくなることを明らかにしました(Arii, 2026)。このゲルを用いた未来型食品の開発も目指しています。

豆腐の形成機構の再考
新しい食感と栄養特性をもつ豆腐の開発を目指し、豆腐の形成機構について再考することで、消費者により好まれる植物性食品の開発へとつながります。
豆腐の加工では、「同じ豆乳とにがりをもちいて食感の異なる豆腐(木綿豆腐ときぬごし豆腐)を作り出す」ができます。その作り分けの分子機構を明らかにすることで、新しい食感や栄養特性をもつ豆腐を生み出せます。これまでに、凝固剤の濃度が作り分けに関与していること(Arii & Takenaka, 2013)、二価金属イオンの役割が凝固の開始(凝固開始因子)であること、金属イオン濃度が「絹ごし豆腐と木綿豆腐の運命づけ」に重要であること(Arii & Takenaka, 2014)、その作り分けの因子が塩析と塩橋であること、凝固剤由来の陰イオンが豆乳中のタンパク質の安定性に影響を及ぼすこと(Arii & Nishizawa, 2018)を明らかにしています。さらに、グルコノデルタラクトン(GDL)を用いた豆腐の形成機構についても分子レベルで解析し、塩化マグネシウム添加による豆腐形成と直接比較し、塩化マグネシウム添加でもpHが低下すること、両添加剤において似た性質をもつ沈殿が生じることを明らかにしてました(Arii et al., 2021)。金属添加によるpH低下も沈澱形成に不可欠であることを明らかとし、タンパク質表面の電荷が失われることでタンパク質分子同士が近づきやすくなり、金属イオンによる架橋形成に至るという説を提唱しました(Arii, 2024)。実際、GDLと塩化マグネシウムを同調的に添加すると、GDL濃度に依存して豆腐形成する塩化マグネシウム濃度が低下することが分かりました(Arii, 2026)。
その他のテーマ

クレマの役割 エスプレッソコーヒーはお好きですか。あの芳醇なアロマ、ガツンとくるテイスト、コーヒー豆の成分をギュッと絞り出したエスプレッソコーヒーについては、実は謎が多いのです。その中でもエスプレッソの上に重層される泡(クレマ)の役割についてはよく分かっていませんでした。私たちの研究で、クレマに保温効果があることがわかってきました(Arii & Nishizawa, 2017)。エスプレッソコーヒーの美味しさを維持する基準の一つに温度があります。冷めたコーヒーは不味いので、なるべく美味しいと感じる温度を維持する必要があります。その温度維持にクレマが役立っているというわけです。本研究は、Bioscience, Biotechnology, and BiochemistryのSpecial number on Food Engineering Scienceに掲載されました。
ハチミツの成分 ハチミツは古代より医薬品や食品として用いられており、健康に有用な様々な成分が含まれています。ハチミツの中に含まれる有機酸でも最も多いものがグルコン酸です。グルコン酸は腸内菌叢の構成や活性に影響を与えます。研究室では、ハチミツの中のグルコン酸量と全糖量が反比例することを明らかにし(Nishizawa et al., 2021)、全糖量を測定することで、グルコン酸が多く含まれるハチミツをスクリーニングする方法を報告しました(Arii & Nishizawa, 2022; 特許7220889号)。研究室で開発した豆蜂はハチミツ中のグルコン酸で豆乳を固めたスイーツです。
